慶応義塾大学 経済研究所

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デンマークにおける環境関連税制の政策過程分析―炭素税に着目して―
The Policy Process of Environmental Taxation in Denmark

倉地真太郎

2017年3月31日

JELコード : H2, Q58

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【要旨】

本稿の目的は、デンマークの環境関連税制、特に炭素税制の政策過程を分析し、いかなる経緯で炭素税の企業に対する多大な優遇措置が導入されたのか、そしてそれはどのような課題をもたらしたのかを明らかにすることである。デンマークは他の北欧諸国と同様にFirst Waveとして、いち早く炭素税を導入した国の一つであり、EU諸国をリードする役割が期待されていた。しかし実際には産業に対する多大な優遇措置を認めた結果、炭素税制において「汚染者負担の原則」を徹底することはできなかった。政策過程をみると、産業に対する負担軽減措置は、環境関連税制の歴史的文脈による経路依存性の影響があるが、その一方で幾度も産業に対する負担増が提起されてきた。だが企業の国際競争力やEUとの租税調和の観点から産業団体等の強固な反対もあって幾度も引き上げは見送られてきた。その結果、炭素税負担は家計重課の負担構造が維持されることになった。だが、炭素税の負担構造は逆進性が強く、低所得者に負担が集中することから、保守グループは炭素税の引き上げに対して以前から批判を行ってきた。そして2000年代初頭の政権交代を機に、炭素税に対する批判はタックスフリーズという増税禁止ルールに結実することになり、負担増加に歯止めがかかることになる。ところがタックスフリーズはかえって租税政策の硬直化をもたらし、2010年代以降も炭素税制の再度の見直しが迫られている。このように、所得税減税の財源確保手段としての環境税関連税制の増税に関して、(少なくとも炭素税制において)家計重課・産業軽課の構造を抱えたままでは国際競争力を維持することはできたとしても、環境改善目標の達成が困難になること、低中所得者層に負担が集中するという問題が生じることになるのである。