国語・算数(数学)に対する学力・選好と、向社会性との関係性の研究

著者: 遠藤直樹
発行日: 2023年3月16日
No: DP2023-006
JELコード: H53, I20, J24
言語: 日本語
【要旨/ハイライト】
 他人の効用を高める行動を促進する能力・価値観と定義される向社会性を取り巻く研究は、昨今最も関心が高い研究の一つである。そのような向社会性の発達・向上ついては特に教育経済学領域で高い関心が寄せられており、アメリカなど我が国以外を対象とした研究で主要科目の学力と向社会性との関係性が報告されている(Wantzel, 1993; Keung, 2003; Penner et al., 2005; Caprara et al., 2015; Maria et al., 2018; Alpona, 2020)。他方で既存研究では向社会性と科目の学力との関係性にのみ焦点を当てており、科目に対する選好に関して議論している研究は見当たらない。学力向上の過程で培った能力を社会で実践するかはどうかは、その科目が好きかどうかが重要な要因であり、選好も向社会性に対して関係があると考えられる。同様に学年間で学力・選好と向社会性との関係性が異なるのかについて分析した研究も存在しない。そのため本研究では我が国における国語・算数(数学)に対する学力・選好と向社会性との関係性と、それらの関係性が年齢の上昇に伴いどのように変化するのかを学年別に回帰分析を行い確認した。
 分析の結果、各学年で最も向社会性と有意な関係性が多い独立変数は国語に対する選好であり、全ての分析で有意な正の関係性がみられた。また国語の読解力と国語の選好は向社会性に対して有意な結果が各学年で観測されたが、そのほかの変数の多くは非有意となった。これらの結果から、国語の学力変数のみを含み、国語の選好を含まない既存研究での結果は、学力変数が選好の代理変数となってしまっていることが示唆された。