教育資金贈与信託制度の認知や利用と家庭内教育支出や学力との統計的関連

著者: 赤林英夫
発行日: 2020年3月25日
No: DP2020-008
JELコード: I24, H24, D64
言語: 日本語
【要旨/ハイライト】

国際的に見ると、我が国の教育支出は、総支出に占める私的支出の割合が高く、特に、私的支出の多くは学校外教育であることが上げられる。過去の調査では、夫婦が子どもを持たない理由として「教育費負担」が上位に来ることも多い。『教育資金一括贈与の贈与税非課税措置』(教育資金贈与信託)は、高齢者の資産の若年層への移転、子育て世帯の支援、子どもへの教育投資の促進を目的として2013年4月に創設された。同制度の下では、孫への教育資金(塾などの私的支出も含む)として、祖父母が金融機関に金銭信託した場合に、一定額まで贈与税が非課税になる。この制度は大きな反響を呼び、2017年度末の信託財産設定額は12,382億円となった。同時に同制度は、三世代にわたる教育資金の移転に影響を与える点において世界にも例を見ない政策である。本稿では、同政策と家庭内の教育支出や学力との関係について、日本家計パネル調査(KJHPS)、日本子どもパネル調査(JCPS)によるクロスセクションデータに基づき、記述統計及び回帰分析により実証的検討を加えた。その結果、(1) 本制度を認知している人、利用している人は、そうでない人に比べ、金融資産が多い傾向にある、(2) 本制度の受贈する子どもの親は、そうでない親に比べて、特に塾・家庭教師の支出が多く、また中学受験をする確率が高い、(3) 一方、他の条件を考慮すると、本制度の受贈する子どもがそうでない子どもよりも学力が高いという証拠は見つからない、ことが明らかになった。