第三者間における罰則規範遂行に関する考察:二つの社会からの新しい実験事実

著者: 亀井 憲樹、Smriti Sharma、Matthew J. Walker
発行日: 2023年8月21日 (初版:2023年4月26日)
No: DP2023-014
JELコード: C92, H41, D01, D91
言語: 英語
【要旨/ハイライト】
社会における協力規範の醸成には第三者による自発的罰則が有効である。一方で、複数の第三者が同時に規範逸脱に直面した時には、第三者は互いに相手の行動にただ乗りをする誘惑に駆られる。本論文では、囚人ジレンマゲーム実験を行い行動データを収集することで、(A)第三者罰則に関する人々のただ乗り性向を分析するとともに、(B)第三者間での高度の罰則が果たす役割を考察した。人々の第三者としての罰則行動には血族関係の強さや文化が影響すると主張する人類学・理論生物学・経済学の知見をもとに、その度合いが強いと知られる『インド』と、弱いと知られる『英国』の二地域を研究実施地に選び実験を行った。実験結果によると、どちらの社会でも、囚人ジレンマゲームで裏切りを選択しパートナーを搾取したものが強い罰則を受け、また、そのような罰則を科さなかった第三者は別の第三者から高次の罰則を受けた。一方で、地域間比較の分析からは、英国における第三者罰則がインドよりも強いという結果が得られた。この行動パターンは、祖先からの血縁関係が弱い社会ほど第三者罰則性向が強いと主張する人類学・理論生物学・経済学における主張と整合的である。一方で、同文献における主張や社会的選好理論とは異なり、「グループサイズ効果」に関するインドと英国での明確な違いも確認された。英国では、第三者は、他の第三者が複数いる環境では他の第三者にただ乗りをする性向を持つ(自身は罰則額を減らそうとする)一方で、インドでは、第三者は、他の第三者が周りにいることによって自身が罰則額を増やそうとする性向があった。