コロナ禍における在宅勤務の実施要因と所得や不安に対する影響
本稿では、2020 年4〜5 月に実施された労働者へのインターネットによるアンケート調査の個票データを用いて、コロナ禍で通勤勤務から在宅勤務へと速やかに移行した労働者とそうでない労働者の間にどのような要因の違いがあり、また、在宅勤務の有無によってどのような影響の違いが生じたのかを検証した。まず、在宅勤務の実施要因について、記述的な分析とともにプロビットモデルを用いた回帰分析を行ったところ、大卒や正社員、高収入、企業規模の大きい企業、人材マネジメントの良好な企業の労働者などで在宅勤務実施率が高くなっていることが明らかになった。さらに、業務特性の違いによる在宅勤務のしやすさ(在宅勤務可能性)を統計的にコントロールした比較も行ったところ、度合いは小さくなったものの、在宅勤務実施の統計的に有意な格差は依然として存在することもわかった。こうした結果は、1つには、高学歴や正社員、高収入、大規模企業勤務といった属性を持つ労働者ほど、在宅勤務がしやすい職種に偏在しており、在宅勤務可能性において格差が存在することを示唆する。もう1つには、同じような業務特性を持つ職業に就いていても、特定の労働者ほど在宅勤務が実施できており、企業や職場における人材マネジメント上の理由でパンデミック時の在宅勤務実施の有無に格差が存在していたことを示唆する。今後のパンデミックへの対応を見据えると、中長期的には業務内容・プロセスの見直しやデジタル化などを進めて在宅勤務可能性を高めていくこと、短期的には就業条件を理由とする在宅勤務の実施の格差を是正していくことが重要といえる。次に、操作変数法で逆の因果性を考慮しながら、在宅勤務の実施によって収入や労働時間、不安が変わるかを検証した結果、不安に対する影響は見出せなかったものの、新型コロナウイルス感染症の流行が深刻な地域を中心に、在宅勤務を実施していた労働者ほどコロナ禍での収入や労働時間の減少幅が小さく、在宅勤務の実施がパンデミックに対する脆弱性を弱めることに寄与した可能性が見出せた。つまり、労働者や企業の属性によるコロナ禍の在宅勤務実施の格差は、労働者の収入や労働時間の格差にもつながると指摘できる。