新型コロナウィルス感染症の予防行動へのナッジの効果:スマートフォン広告を用いた大規模無作為化対照実験から

著者: 森脇大輔、原田宗一郎 、シュナイダージヤン、星野崇宏
発行日: 2020年11月8日
No: DP2020-021
JELコード: C26, D91, M38
言語: 英語
【要旨/ハイライト】

新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の拡大を遅らせるためには自発的な予防行動が不可欠であり、そのような行動はナッジメッセージングによって促進することができる可能性がある。そこで本研究では、個人の予防行動への関与を高めるためのナッジベースのメッセージの有効性を調査した。本研究では、東京都内の携帯電話利用者30万人を対象とした大規模無作為化比較試験を実施し、ディスプレイ広告を用いてナッジメッセージを送信した。このアプローチにより、Covid-19の第2波が日本に上陸した2020年7月に、GPSを利用した様々なアプリを利用したユーザーの地理的位置情報の履歴を追跡することができた。本研究は、スマートフォンのGPS情報を利用してナッジ介入効果が人の空間移動行動に及ぼす影響を測定した初の試みである。その結果、週末には、ナッジを利用したメッセージが、閉鎖空間や人混みの多い空間、人との接触を避ける傾向を強めることが明らかになった。最も効果的なメッセージは金銭的損失回避を強調するものであった。メッセージの配信コストとして1人あたり0.1ドル以下で、メッセージを受け取った人は週末の1日あたり約52分屋外活動を減らしていることがわかった。追跡調査の結果から今回のナッジベースのメッセージは自宅待機者の受け取り意欲額から算出した金銭的補償の2.5~6.5%のコストで金銭的補償と同じ結果が得られたことが示唆された。これらの知見は、現在のパンデミックを克服するための政府のマーケティング戦略や効果的なナッジベースの介入の開発に意味を持つであろう。