結婚、子どもを持つことと夫婦間の賃金格差

著者: 何 芳
発行日: 2024年3月29日
No: DP2024-008
JELコード: J31, J38, D13
言語: 日本語
【要旨/ハイライト】
 本稿は、「21世紀成年者縦断調査」を用いて、配偶者を比較対象にし、結婚、子どもを持つことが女性の賃金面にもたらすマイナスの影響を考察する。分析では、まず、基本集計を通じて、結婚と第1子出生前後の男女の就業率、年間労働所得、生活時間配分の変化を確認する。次に、パネル固定効果モデルと変量効果モデルを用いて、年間労働所得、観測賃金率、推定賃金率のそれぞれを賃金指標とした場合、妻の夫に対する相対賃金水準が結婚や第1子出生からの経過年次に伴い、どのように変化しているのかに関する回帰分析を行う。
 基本集計を通じて、結婚、第1子出生を機に、女性の就業率、正規雇用就業率、年間労働所得、週労働時間の大幅低下と週家事・育児時間の大幅増加が確認された。
 結婚や第1子出生からの経過年次に伴う妻の夫に対する相対賃金水準の変化に関する回帰分析の結果、以下のことが確認された。1)賃金指標によって、観察された結婚や第1子出生からの経過年次に伴う妻の夫に対する相対賃金水準の低下度合いが異なり、年間労働所得で観察された低下度合いがもっとも大きく、推定賃金率で観察された低下度合いがもっとも小さい。2)結婚1年前と比べ、妻の夫に対する相対賃金水準は、結婚から18年後に、年間労働所得では31.1%ポイント、観測賃金率では7.4%ポイント、推定賃金率では3.7%ポイント低い。3)第1子出生2年前と比べ、妻の夫に対する相対賃金水準は、第1子出生15 年後に、年間労働所得では22.5%ポイント、観測賃金率では5.9%ポイント、推定賃金率では4.7%ポイント低い。4)妻の出産前後の就業形態の変化パターンによって、第1子出生からの経過年次に伴う妻の夫に対する相対年間労働所得水準の推移が異なる。「就業継続」の場合、妻の夫に対する相対年間労働所得水準の低下度合いが比較的小さい。
 本稿の分析結果から結婚、第1子出生を機に妻の夫に対する相対賃金水準の大幅低下が観察され、結婚、出産に伴う性別役割分業の強化は労働市場における男女間賃金格差の重要な一因であることが示された。また、女性が出産前後に「就業継続」した方が夫に対する相対年間労働所得水準の低下が比較的小さいことが確認され、男女間賃金格差を縮小させるために、女性の就業継続支援策の重要性が示された。