韓国の第5次国民年金改革(案)の所得再分配効果 ―所得階層別の年金加入期間と平均余命の格差を中心に―

著者: 朴 栓鏞
発行日: 2024年5月30日
No: DP2024-013
JELコード: D31, H23, H55
言語: 英語
【要旨/ハイライト】
 本稿は、韓国の保健福祉部が2023年10月30日に発表した第5次国民年金総合運営計画(案)に対して、各改革案による所得再分配効果をシミュレーション分析し、国民年金制度の設計当時から盛り込まれている所得再分配機能の観点から改革案を考察することに目的がある。
 1998年度から2021年度の韓国労働パネル調査(Korean Labor & Income Panel Study: KLIPS)のパネルデータを用いて、個別加入者の生涯所得を推定し、年金保険料総額を算定すると同時に、韓国統計庁の将来生命表に従って導出された性別及びコーホート別の平均余命から年金受給期間を設定し、年金受給総額を算定した。次に、現行制度と第5次国民年金総合運営計画(案)で提示された各改革案(改革案1から6まで)に対して、所得格差の指標として平均対数偏差(Mean Log Deviation: MLD)を推計し、現行制度と比較して、改革案ごとに所得再分配はどう変化するか、その効果を見極めた。そして、本稿では所得階層別に国民年金に加入する期間や平均余命に格差が存在する現実を踏まえて、所得階層別の加入期間格差と平均余命格差を反映した分析も別途実施している。
 各改革案の所得再分配効果を雇用形態別(正規雇用労働者と非正規雇用労働者、自営業者)に考察したところ、国民年金の全加入者が20年間加入したと仮定した場合、保険料率の引上げ案(改革案1、改革案2、改革案3)や、保険料率の引上げ速度の改正案(改革案4)、年金支給年齢の引上げ案(改革案5、改革案6)の全ての改革案で所得再分配の改善効果が見られた。一方、各加入者における所得階層別の加入期間格差と平均余命格差を反映した場合、年金支給年齢の引上げ案は、全ての雇用形態の加入者に対して、所得再分配が悪化する結果が得られた。本結果は、全世代にわたる世代内所得再分配の悪化効果に起因することが確認された。
 以上の分析結果より、韓国政府は「国⺠年金財政が⻑期的に均衡を維持できるように調整」という財政目標を掲げて、保険料率の引上げをはじめ、世代別保険料率引上げ速度の改正、年金支給年齢の引上げの内容を骨子とする国⺠年金改革案を提示しているが、同一な財政目標で出された案ごとに所得再分配効果は異なることが確認された。特に、年金支給年齢の引上げは、全ての雇用形態の加入者に対して、所得再分配の悪化を誘発する可能性があるとの示唆が得られた。