負の供給ショックと雇用流動性
著者: 寺井公子
発行日: 2022年8月4日
No: DP2022-012
JELコード: J24,J26,J32
言語: 日本語
【要旨/ハイライト】
本稿では、伝染病、大規模自然災害のような負の供給ショックが発生し、ショックの影響が企業間で一律でない経済で、年功型賃金が労働者の転職への意欲を抑制すれば、企業利潤が最大化されないことを、理論モデルを用いて説明する。初めに、企業は長期的な年功型賃金契約にコミットすることで、企業内訓練で、勤勉な労働者に企業特殊的人的資本投資の努力を促し、需要独占者として、独占レントを享受できることを示す。しかしながら、負の供給ショックが発生するとき、生産性が低下した労働者に転職を思い止まらせることで、企業が損失を被る。退職給付制度を年功型賃金契約の一部としてとらえることができ、日本の退職給付制度には長期雇用を誘導する機能が備わっていることを確認したうえで、企業年金のポータビリティ―を高め、長期雇用を前提とした退職給付税制を改めることは、雇用流動性の促進に寄与することを示す。