マレーシアのアナツバメの持つ持続可能な収穫者を利する生態学的特徴〜社会生態システムによる研究

著者: 中丸麻由子、大沼あゆみ
発行日: 2020年5月19日
No: DP2020-011
JELコード: Q01, Q57
言語: 英語
【要旨/ハイライト】

生物多様性管理における一つの大きな課題は、持続不可能な収穫者による過剰収穫をどう制御するかである。もし、持続可能な収穫者が持続不可能な収穫者よりも、短期的にも多くの利益を得るシナリオを作成できれば、過剰収穫の問題は解決され、誰もが持続可能な収穫者となるだろう。しかし、このようなシナリオを作るのは容易ではない。特に対象とする生物の生息地に所有権が賦与されておらずオープンアクセスの状態にあるならば、このシナリオはさらに困難になる。ところが、持続可能な収穫者が持続不可能な収穫者以上の利益を得ると考えられる実例がある。それは、マレーシアのサラワク州に生息するアナツバメである。アナツバメの成鳥が作る巣は、中華料理の伝統的な高級スープの材料として使用される。ところが巣の価格が上昇したことにより、持続不可能な収穫者により、多くの巣が卵や幼鳥と一緒に採取され放棄してしまうようになった。アナツバメは洞窟の天井に巣を作るが、持続不可能な収穫者が採巣するとアナツバメはその天井から逃げてしまい、同じ場所に戻らないことが知られている。アナツバメの持つこの生態学的特徴は、持続不可能な収穫者に対するアナツバメによる処罰とみなすことができる。本論では、サラワク州のニアの洞窟でのアナツバメの保護を念頭にモデル化を行う。ニアの洞窟はルバンと呼ばれる小洞窟が多数連結し構成されている。それぞれのルバンには所有権(採取権)があり先住民に賦与され、さらにそれらを貸与された華人が巣の採取を行う。 本論は、ステージ構成のある個体群動態モデルのもとで、所有権およびアナツバメによる処罰が、アナツバメの個体群動態、および持続可能な収穫者と持続不可能な収穫者の両者の経済的利益に対していかなる効果を与えるのかを検証する。本論の結果は以下のものである。アナツバメが持続不可能な収穫者から逃げた後に洞窟に戻る限り、アナツバメの処罰は、所有権システムの下で持続可能な収穫者に持続不可能な収穫者よりも高い収益を短期的にも提供する。コモンズの管理に関する既存研究は、生物種の生態学的な独特さを考慮せずに持続可能な収穫のためのルールと規制の重要性を強調してきた。本研究は、生態系の持続可能な利用の枠組みを設計するためには、社会科学的な観点からの設計だけではなく、生物種の生態学的特徴を知ることが不可欠であることを示唆している。