環境税は国際協調になぜ失敗したか? ―EU,北欧,オランダを事例に―
Why international cooperation on greening tax system failed? -The Case of EU, Nordic Countries, and Netherlands -

著者: 倉地真太郎、佐藤一光、島村玲雄
発行日: 2016年2月1日
No: DP2015-015
JELコード: H23, Q58, F53
言語: 日本語
【要旨/ハイライト】

本稿は,先進諸国において環境税がどのように広まったのか,EU,北欧諸国,オランダを事例に分析を行った.グローバル化が進展する近年においても,税制改革は依然として国内の政治的要因に左右される側面を認めることができる.しかしそれと同時に各国の租税政策は,国際機関や国家間の政策協調によっても影響を受ける.環境税もその例外ではない.特に環境問題や環境税制の国際的側面を踏まえれば,環境税の制度設計に関する国家間政策協調あるいは共通国際環境税の導入は取りうるべき選択肢の一つとなる.分析の結果,以下の3点が結論として集約される。第一は,EUにおける租税協調はこれまでのところ失敗しており,積極的な炭素/エネルギー税の提案の性格は単一市場における競争条件を整備するための租税調和へと変質してしまった.大規模な減免措置は各国内における政治的受容性を高める作用をもたらしたが,環境税が持つ費用効率性という利点も財源効果も減少し,ひいては環境税という政策手段そのものへの期待を失わせてしまった.第二に,北欧諸国における炭素税の連鎖的な導入は,北欧諸国がECよりも先んじて環境政策の経済的手段に関する協調を試みてきた成果であるといえる.その政策協調の動因は,①強制力はないが国内環境立法の調整を意図した環境保護条約や調整機関の存在,②歪みのない国際競争力の達成や二酸化炭素排出量といった問題の共有,③二元的所得税の導入に伴う所得税率の引き下げへの代替財源という類似課題であったといえる.しかし,北欧政策協調が強制力を有しないことは,政策担当者間のアイディアの伝播,すなわち非義務的な政策拡散を容易にするが,セクター間の税率格差や税率の統一は困難であり,現在でもその性格は同様である.第三に,オランダは,炭素税の導入の際,EC提案に非常に影響を受け,そしてEC提案の後押しした.それと同時に国際競争力の観点から産業負担の軽減を施す制度設計も行われた.こうした特徴は北欧諸国と比べてそれほど際立っているわけではない.しかしその後,オランダは環境政党の台頭を背景に,EUの炭素税のハーモナイゼーションの失敗にもかかわらず独自路線を歩んだことは特徴的であった.